製造現場で機械化が進む中、作業者のちょっとしたミスによる不良が目立つようになりました。作業者に注意してもなかなか作業ミスは減りません。そもそもヒューマンエラーとはどのようなものでしょうか? ヒューマンエラーとは、適切な標準が整備されていて、その仕事をするのに必要な力量を持っているにも関わらず、意図せずにやってしまうミス(エラー)です。すなわち、作業標準が存在し、作業者が力量を保有していることが前提となります。したがって、作業標準を作成し、教育訓練により力量を身に着けることが不十分であれば、まずそれをやることが必要です。また、作業標準自体に不備や欠落があるのなら、作業標準を改善する必要があります。そうしたものを除いてヒューマンエラーを分類すると、以下の3つになります。
1)うっかり型
やろうとすること(計画、目的)は正しく認識しているが、行動に移した時にうっかりと行動を間違える、というものです。この対策の方向としては、人の行動が無意識のルーチン化に陥らないような工夫があります。たとえば、「指差し呼称」のように、行う動作を一つ一つ意識して確認する方法です。
2)ぼんやり型
やろうとすることは正しく認識されていたが、ぼんやりしてやることを忘れる、というものです。たとえば、製造現場で、1サイクルの作業の途中で話しかけられて作業を中断した後に1ステップ飛ばして作業を再開してしまったというケースです。この対策としては、こまめにメモを取る習慣づけ、現場での表示・掲示の充実、作業中の安易な声掛けの禁止のような外乱を防ぐ工夫などがあります。
3)思い込み型
やろうとすることを間違えて認識してしまうことです。この場合、上記2つとは違って本人は間違いに気づくことができません。気づくのは不良が発生した後になります。この「思い込み」型が最も厄介なモードです。この対策の方向としては、曖昧な指示を排除していくことが考えられます。思い込みの発生を助長する典型的な例に、「あれやっといてくれ」、「はい、これで良いですね」といった曖昧な指示と曖昧な応答というものがあります。
こうしたヒューマンエラーの要因を取り除く方法としては以下の5つが考えられます。
①指差し呼称
「指差し」も「呼称」も一番重要なのは「見る/確認する」という行為です。これを「ちゃんと見ろ」というように曖昧に指示すると、見落とし、見過ごしが発生します。大きな声で指差ししていても、目はうわの空、ということが起こり得ます。
②危険予知訓練(KYK)
これから行う作業の開始前に、リスク評価を行い、必要な対策を予め施すことによって事故や不具合を防止しようとするものです。これから行おうとする仕事のプロセスの流れを可視化し、チームで情報共有し、どのような危険が潜んでいるかを抽出して対策を立てます。複数の人の目で現場を見ることによって一人では気づけなかった危険源に気づくことが期待できます。ただ、KYKにもマンネリ化の罠が存在します。過去に経験した類似の成功事例を意識的に、または無意識的に流用(コピペ)してしまわないように気をつけなければいけません。
③ヒヤリハット活動
ヒヤリハット活動は、抽出した危険源やリスクに対して事前に手を打つという面ではKYKとほぼ同じ内容ですが、ヒヤリハットの場合は、事故や不具合ではないにしろ現実に起きた危ない出来事を対象にします。ヒヤリハット事象を手掛かりにリスクの存在に気づき、緊急対策や水平展開を行い、仕組みの頑健さを向上するのが目的です。
④5S活動
整理・整頓を実施することで、職場のノイズ(たとえば、要らないものを誤って使ってしまう可能性)を減らすことができます。その結果としてヒューマンエラーの防止につながります。
⑤チェックリスト
日々の改善活動の結果、標準は改訂されていくのが自然な姿です。しかし人間は、つい、慣れ親しんだ古いやりかたを選んでしまうことがあります。結果として、それが標準と違う行動の原因となってしまうことがあります。こうした人間の記憶の不確かさという特性を考慮した対策としてチェックリストがあります。しかし、緊急事態に陥った場合は、あせればあせるほど、処置を急ぐあまり、半ば善意で記憶に頼った行動をする可能性があります。
不良の多くは「再発」です。人の不注意を指摘して、「以後ちゃんと見るように」、「はい、わかりました」という曖昧な指示と応答では再発は防げません。よく後工程はお客様と考え、一つ一つの工程の中で確認・検査作業をするように、と言われます。この時、できた結果を確認するのではなく、作業の出来栄え、すなわちプロセスを確認することが重要です。その重要なプロセス(作用点)を危険予知訓練やヒヤリハット活動で見つけ、チェックリストに具体的に作用点での確認事項を記載し、指差し呼称で確認します。その上でマンネリ化防止や緊急時対応について工夫が必要になります。
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